仮にそうだとすれば、文化財に用いることすら難しい、とても高価な、とても希少価値のあるものになるはずです。
が、そこかしこで売られていますね。何故でしょうか?
何故かということは別として「どれだけ難しいか?」ということをご説明します。
<国産原料は簡単には手に入らない>
実は国産の伝統素材というものはほとんど流通していないのが現状です。
漆喰に使うのであれば石灰、海藻、麻が必要になりますが…
石灰は唯一、国内自給が可能な鉱物ですから、国産ですよね。
海藻は流通している大半は韓国からなどの輸入海藻を加工したものです。
そして麻は…大麻取締法などその生産は大変制限されているものなのです。
<ええっ?!大麻~???>
というわけで、今日も麻のオハナシを詳しく。
漆喰には、素材自体の強化と作業性の向上などのために植物繊維が混ぜられます。
その材料を「すさ」(=苆)といいます。下の写真が麻を加工した「麻すさ」。主に漆喰に使われているものです。
その、麻という素材の種類についてもう少し詳しく説明しょうね。
<大麻・苧麻>
我が国で古くから使われていた素材です。
大麻は悪用する輩が後を絶ちませんね。もともとはその茎の皮を使って繊維を取り出していたのです。悪いことに使われるのは葉の部分。主にインド種のモノがその悪事のもとになります。
苧麻はイラクサ。山遊びしたことのある方なら、服にペッタンと貼ったシソみたいな葉っぱのアレです。同様に茎の繊維を使います。
<海外からの麻>
近世になって、亜麻やマニラ麻、ジュートなどが輸入されました。
亜麻色の髪や亜麻仁油で知られる亜麻は明治初頭の北海道開拓からの栽培です。今はヨーロッパ産が多いようですね。リネン麻と呼ばれるのは亜麻のことです。
マニラ麻は馬尼剌麻として明治期の文献に、漆喰用の素材として使えないかという論文が残っています。名前の通りフィリピン原産ですね。耐水性があり、船のロープなどで使われていたものを建材用に加工していました。ところが最近、本物のマニラはほとんど流通していません。
ロープ素材がナイロンなどに変わったことやマニラ麻(アバカ)はフィリピンからの国外持ち出し禁止品になっていることが影響しているようです。
現在「マニラ」として売られている繊維はほとんどがサイザル麻。荒物屋で売っているマニラロープもサイザル麻で出来ています。気をつけてください。耐水性が格段に悪いですから。
南京袋やドンゴロスと呼ばれる麻袋に使われているのがジュートまたはケナフ。
ジュートの主な産地はインドやバングラデシュ。黄麻や綱麻と書かれます。よく売られている麻紐もコレです。
ケナフは茎がパルプの代わりに用いられます。「環境に優しい」として最近良く目にしますね。
…ちなみに国産の麻はまったく無いわけではありません。実は国内で許可を受けて麻の栽培をしている地域があるのです。が、目的は伝統工芸や神事、そして文化財などのため。左官向けにはほとんど手に入りません。
それでも我が国には輸入された原料を一心不乱に加工してくださる麻すさの職人さんがいるのです。原料がドコのモノであれ我が国伝統の技術の結晶であることには変わりありませんよね?
というわけで、国産の漆喰、どれだけ大変なものなのか、分かっていただけたでしょうか?