「漆喰のオハナシ」 おさらいその4

2014/12/26

おさらい

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おさらい4日目。昨日の「麻すさ」に続いて、今日は「海藻のり」についてです。

海藻のりは、海から採って来て少なくとも1年以上熟成させる必要のある、すぐには使えない素材ですから、手間だけでなく「目利き」も必要な素材なんです。


海藻のり。まずはその役割です。

ノリというと、どうしても接着剤を連想する方が多いのですが…漆喰に必要なノリは作業性や保水性のため。当然、多少の接着力も付与されますが、海藻を使った保湿パックや髪のコンディショナーと同じく、漆喰がしっとりとした状態で作業を続けられるのです。

漆喰が早く乾き過ぎるとキレイに塗り延ばすのも難しいですし、急激な凝集はひび割れも出やすいので、保水性を良くすることでゆっくりと乾かすというわけです。

 ちなみに左官さんが言う「のり効きが悪い漆喰」と云うのは
 本来「乾きが早い漆喰」を指して言う言葉です。

さて、そんな海藻の種類は…

一般的に、最も有名なものは「布海苔(ふのり)」。
布の「のり付け」にも使われていたことから、「布の海苔」と書かれるという説もあります。現在、伝統工芸などには使われていますが、漆喰に使われるのはごく一部。歴史的には瀬戸内産のものが使われていたようです。



左官職人さんの中では一般的なものが「銀杏草(ぎんなんそう)」。
地域によっては「仏の耳」「耳のり」とも呼ばれますね。現在の漆喰に最も使用されている海藻です。産地は北東北から北海道。流通しているものの多くは韓国や南米のもののようです。



角叉(つのまた)」。
銀杏草の仲間とも云われますが、全くの別物。流通しているのは関東地域が多いです。産地は三陸といわれる岩手や宮城。



漆喰に使うには、これらの海藻を鍋でコトコト炊いて、「のり」を煮出します。


そして網で漉すと、漆喰に最適な「のり」の出来上がり。



海藻を煮出したのりで漆喰を作るのが先人から受け継いできた伝統製法なのですが、現在ではこんな作業を行えるだけの環境や費用がなくなっているのが現実です。

  街なかの工事現場でたき火が出来ますか?
  近所で海藻の発酵したような刺激臭がただよっても大丈夫ですか?

昔は工事現場や左官さんの店先で火を焚いて漆喰のための海藻を煮るのが当たり前でしたが、今ではそんなことをしたら近隣から怒られてしまいますね。


なのでコレを使うわけです。


正体は粉末海藻。炊いて出来たノリと同じようにつかえるよう、加熱して蒸したものを乾燥させて造ります。

実際に加熱後の海藻を天日干しする姿。海藻の状態を見極めながら最も左官さんが作業しやすいように加工する…海藻職人さんですね。



残念なことに近年の漆喰では「のり」は「糊」と考えられていることが多いようです。そのためか、接着性や硬化を強めようと様々な樹脂が用いられています。

もともと使われてきた海藻のりは水に溶け自然に消えていくもの。そして漆喰が固まるメカニズムは二酸化炭素を吸収すること。のりに接着力を期待する必要などなかったのです。

では樹脂で固められた漆喰、それは漆喰と呼べるのでしょうか!?